2002/04/13
赤ワインの意外な効用



「 上の奥歯、どういう状態か知ってます? 」
診察台で、とうとう「 まな板の鯉 」になってしまった私に、N先生の声
「それですねぇー、虫歯なんだけど10年前から全然進行しなくって
痛くもかゆくもないから、放って置いてたんですけどぉ・・・・ 」 と私


「 真っ黒になってて固いんですよ。これって、もしかしたらゆうこさん!赤ワインのタンニンで
虫歯をコーティングしちゃって進行を防いでるんじゃないかな。江戸時代の ”お歯黒 ” と
同じですよ。あの黒いのも実はタンニンの一種なんですよ 」
えぇ!そんなことって本当にあるのかな?
確かに、仕事柄普通の人よりは赤ワインを飲む機会は多いけれど・・
もしホントなら、嬉しいじゃないですか。赤ワインはポリフェノール効果だけじゃなくって
虫歯予防にもなるんですよーって、みんなにすすめよう
「 おいしく飲んで、健康な歯になろう 」 なんてね

でも、ちょっと待って
主人とは ”ワイン会&さだまさし ” つながりのN先生のこと
お得意のジョークなのではと、半信半疑、そこで思案のすえ
「 この間のタンニンの話、ワインレターに書こうと思うんですけど 」とメールを送ると・・

むし歯治療から予想外のとんでもない方向に話が進むことになりました
「 本当に赤ワインに含まれているタンニンがむし歯の進行を抑制する効果があるのか? 」
「 もし本当なら現在使われているのか? 」 次々と好奇心が膨らむばかり
検索してみるとタンニンの項目は山ほどあるのですが、むし歯とタンニンの関係は、なかなか見つからず
キッカケを作った張本人のN先生に直接尋ねてみようとメールを送ったところ、至極マジメな先生で
『 いい加減なことを言ったらいかんから、ちょっと調べてみます・・・』 と、これまた丁寧なお返事をいただき
そして一週間後、何種類もの資料を抱えてやってこられたのです

今と昔の歯科治療に対する基本的な考え方の違いから始まって、欧米人(肉食)と日本人(米穀食)の
噛み合せの違い、子供時代(乳歯治療)の重要性、歯の傷みが体全体に与える影響などなど
トレードマークの額と目を輝かせながらレクチャーしてくれました
しかし、内容が豊富過ぎて理解の限度をオーバーしてしまいました
ややもすると話題が横道に逸れ 「 何の話でしたっけ? 」 は、いつものこと
この懸案事項については、もう少しお互いに研究しましょう・・と、いう事で初回の研究会は終了?

その翌日・・・面白いのがありましたよ!と送ってくれたのが
歴史に学ぶむし歯予防(FAXで届いた参考資料)
1.お歯黒の歴史

浮世絵で有名な歌麿や春信の美人画をみたことがありますか。
なんとなく口元が変なのは歯を真っ黒に描いているためです。
これは「お歯黒」といって、江戸時代、結婚した女性に歯を黒く着色する風習があったからです。
わが国におけるお歯黒の歴史は古く、奈良時代に北方民族によって朝鮮半島から伝えられたと
いわれています。平安時代には貴族階級の間に広がり、男女ともに十七〜十八歳で歯を黒く染め
成人であることを表していました。その後、時代とともに染めはじめる年齢が低くなり、室町時代には
十三〜十四歳に、戦国時代になると武将の娘は早く政略結婚させるために八歳で染めていたといいます。
今川義元の肖像画などをみると、成人男子でもお歯黒をしていたことがわかります。
江戸時代に入ると上流社会の生活様式がしだいに一般庶民にも浸透しはじめ、お歯黒は元禄時代には
全国各地に広がりました。そしてこの時期に男子のお歯黒は姿を消したのです。

さて女子だけのものになったお歯黒ですが、緻密なエナメル質を染めるのは骨の折れる仕事でした。
そこで庶民に広がってからは、女性にとって人生の大転換点である婚約・結婚を迎えてはじめて染める
風習となり、ついには既婚女性の象徴となりました。
黒は何色にも染まらない色なので、貞節を意味し、既婚女性の誇り高い心の支えともなっていたようです。
一方、封建制度下における女性を、精神的にも外観的にも人妻として制約するための強力な手段であった
ともいえるでしょう。

お歯黒の風習は、明治政府の近代化政策により、ちょん髷や帯刀とともに禁止されたので
次第になくなっていきました。そして、大正時代にはほぼ全国からお歯黒の風習はなくなりました。
お歯黒の風習がこのように長い間受け継がれてきたことには、理由があったようです。


2.お歯黒のむし歯予防効果

大正時代、北陸の農村部では「お歯黒の女性には歯医者はいらない」と言い伝えられていました。
お歯黒の歯には、むし歯や歯槽膿漏も少なく、歯の痛みも起こりにくかったので、このような
言い伝えが残ったのでしょう。奈良時代の宮廷から始まったお歯黒が江戸時代には庶民にまで
広がり営々と続いたのは、その効果を人々が理解していたからではないでしょうか。

さて、お歯黒の材料は五倍子粉(約60%のタンニン含有)と鉄漿水(酢酸第一鉄溶液)でした。
タンニンは、歯や歯肉のタンパク質を凝固・収斂させ、細菌の侵襲から守る作用があります。
また、鉄漿水の主成分である第一鉄イオンには、エナメル質の主体であるハイドロキシン・アパタイトを
強化して耐酸性を向上させる効果があります。
さらに未反応の第一鉄イオンは、呼吸の酸素によって酸化され第二鉄イオンとなり、未反応の
タンニンと結合して黒い耐溶性のタンニン酸第二鉄となって歯の表面をおおい細菌との接触を予防する
効果があるのです。
そして、お歯黒の材料は歯垢をよく取り除いておかないと歯に染まらなかったので、当時の女性たちは
楊枝で丹念に取り除いていました。つまり目的をもって効果的に歯磨きをしていたわけで
これも、むし歯予防に重要なことでした。

お歯黒のように無機質と有機質の両面から歯を守る、いわゆる予防歯科材料は、欧米の歯科界では
当時まだ発見されていませんでした。私たち日本人の先人が奈良時代から予防歯科材料を開発し
実践していたことは、歯科医学の歴史の中で特筆されるべきことでしょう。
現在、このお歯黒の有効成分が注目され、製品として開発されています。
たとえば、歯に接着するセメントに加えて、治療後の歯がむし歯になりにくいように利用されているのです。

この件に関して情報をお持ちの方は、お知らせくだされば幸いですお便り